こんにちは。看護師長のはるです。
今回は誤嚥の予防についてお話します。
私は病院で20年以上働いていますが、患者さんの高齢化を感じます。最近は60~70代の患者さんを見ても「若い」と思います。
特に内科病棟や慢性期病棟では、90代の方がたくさんいますし、100歳を超えた方が複数入院していることも珍しくありません。
患者の高齢化で誤嚥予防がより大事になってきています!
高齢の人は様々なリスクがありますが、自宅や施設に退院できるかどうかを判断するときに問題になるのは、食事が食べられるかどうかです。
食事を誤嚥して口から食べられなくなると、自宅での生活が難しくなってしまいます。できるだけ食べる力を落とさずに食事介助して、自宅に退院してもらいたいですよね。
そして飲み込む力が衰えた高齢者が食事をするときに気をつけないといけないのが『誤嚥性肺炎』です。
肺炎を繰り返すと体力が落ちてしまい、入院期間も伸びて、さらにほかの合併症につながりかねません。
看護師の皆さんにはぜひ誤嚥予防について知識と技術を身につけてもらい、病気の治療が終わった高齢者にきちんと食事を食べて自宅に帰れるような援助をしてもらいたいとおもいます。
高齢者の早期退院を目指して、一緒に誤嚥予防を勉強しましょう!
私の働く病院では、食事形態の相談や嚥下訓練に関する調整などはNST委員会で取り組んでいます。
プライマリー看護師と、病棟のNST委員とで協力して、誤嚥を予防しながら食事摂取を促すよう活動しています。NST委員会については>>看護師の委員会【やらされ感をなくせ!】種類と役割まとめで詳しく紹介していますので、気になる方は読んでみてください。
誤嚥性肺炎ってどんな病気?
食べ物や口の中の唾液は、ゴクンと飲み込んだら食道を通って胃に運ばれます。しかし、飲み込みが上手くいかないと、気管に入ってしまい、反射的にむせてしまいますよね。
人間は飲み込めずに気管に入ってしまった時に、反射的にむせて吐き出すような機能が備わっているのです。
しかし年をとって体の機能が鈍ってきてしまうと、むせてもうまく排出できなくて、肺炎を起こしてしまうのです。
こんなふうに食べ物や唾液が気管に入ることを『誤嚥』と言って、その結果として肺炎になることを『誤嚥性肺炎』といいます。
誤嚥性肺炎は食べる時にだけ起こるわけではありません。ただ寝ているだけでも唾液を誤嚥してしまったり、経管栄養をしているときにも誤嚥をする可能性はあるので注意が必要です。
誤嚥しにくい工夫
飲み込みにくい食材を避ける
- 飲み物や汁物、スープ
- 噛むと液体がでてくるもの
- 繊維が多い野菜
- 弾力があって噛みにくい加工品
- パサパサしたもの
- 粒が口に残るもの
- 酸っぱくてむせやすいもの
- の度に貼りつきやすいもの
1.飲み物や汁物、スープ
液体は、自分のタイミングと合わすすぐに咽頭に入ってしまい、むせてしまいます。
咽頭の反射が間に合わないのです。
とろみをつけたり、汁物やスープはゼリー状にするとのどに届くまでの時間がゆっくりになるので、むせにくいです。
2.噛むと液体がでてくるもの
がんもどき、高野豆腐 など
口の中で水分がでてきてしまい、のどに流れ込むのでむせやすいです。
こういう食材は避けるか、小さく切って少しずつ口に入れましょう。
3.繊維が多い野菜
ごぼう、レンコン など
こういう食材は煮ても柔らかくなりにくいので、基本的に飲み込みにくい食材です。
すりおろしたり、ピューレ状にしてあげると食べやすくなります。
4.弾力があって噛みにくいもの
たこ、いか、こんにゃく、きのこ など
あらかじめ、細かく隠し包丁を入れて嚙み切りやすくしておきます。
サイズも一口大にして、口の中でしっかり噛めるようにしましょう。
下でつぶせるくらいの柔らかさに煮るのも、良い工夫です。
5.パサパサしたもの
パン、いも、ゆで卵、焼き鮭 など
パンは牛乳やスープで水分を含ませて食べると、食べやすいです。
ゆで卵はマヨネーズと和える、イモもスープなどで水分を含ませてください。
6.口の中でバラバラになるもの
ひじき、ナッツ、大豆、ひき肉 など
ひき肉はつなぎを入れてハンバーグにして、焼かずに蒸すとバラバラになりにくいです。
豆類はスープに入れたり、あんかけにすると口の中でまとまりやすくなります。
おろした大根や山芋、絹ごし豆腐などと和えるのもおススメです。
7.酸っぱくてむせやすいもの
酢の物、柑橘類、オレンジジュース
酸っぱいものはむせやすいです。
柑橘類は果汁に甘みを加えてゼリーにすると食べやすいです。
酢の物はだし汁で酢を薄めて、まろやかな味付けをしましょう。
8.のどに貼りつきやすいもの
焼きのり、わかめ、生野菜、もち など
生野菜は、塩でもんでしんなりさせたり、トマトは皮をむくと食べやすくなります。
千切りにしてマヨネーズと和えるのも、口の中でバラバラにならなくて食べやすいです。
焼きのりは避けて、のり佃煮に変えましょう。
とろみをつける
とろみ材は、熱を加えることでとろみが出る片栗粉やくず粉とは違って、料理の温度に関係なくとろみをつけることができます。
ドラッグストアでも市販されていて、家庭でも使うことができます。
使用量を守って正しく使えばきれいにとろみがついて、美味しく食べることができるので上手に活用しましょう。
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とろみをつけるだけではなく、あんかけにすることもおススメです。
だし汁のあんを作って、バラバラになりやすい食材にかけると、口の中でまとまって食べやすくなります。
食事に集中して息を止めて飲み込む
口のなかで咀嚼中に話をすると、食べ物がのどの奥に入り込んでしまって、誤嚥するリスクがあります。
食事のときな食事に集中できるように、環境に配慮をしましょう。
周りの話し声やテレビに気を取られてしまうと、きちんと飲み込めなくなることがあります。飲み込む力が落ちていて食事に注意が必要な人は、静かな場所で集中して食事が出来るように環境を整えてあげてください。
1口に2回の「ゴックン」を!
口に入れた食べ物を、一度の「ゴックン」で飲み込めずに、残ってしまうことがあります。
飲み込んだ後で声を出すと“ガラガラ”した声になることがありますよね?
あれは、気管の入り口に食べ物や水分が貯まっているのです。その場合は、口の中に食べ物がない状態で「ゴックン」と唾液だけを飲み込む『空飲み込み』をしてください。
そうすると、気管の入り口に残ってる食べ物や水分を食道に送り込むことができます。
食べる時の姿勢も大事
イスに深く腰掛けて、両足を床につけて、あごを引いた姿勢にしましょう。
猫背で食べていると、飲み込むときに使うのどの筋肉が首や頭を支えるために突っ張ってしまうので、食べ物を飲み込みにくくなってしまいます。
反対に背もたれにもたれて胸を反るようにしていると、口からのどにかけてカーブがなくなって直線に近くなるので、誤嚥を起こしやすくなってしまいます。
そのため姿勢を正し、背筋を伸ばして口をしっかり閉じて、あごを引いて飲み込むことが大切です。
ベッドで食事をする場合でも、背もたれを起こして食べましょう。
ST(言語聴覚士)による嚥下訓練をしている場合は、背もたれの角度やスプーンの大きさなど、STからの指示に従ってください。
口の中の清潔が重要!
高齢者は、唾液の量が少なくなってくるので、口の中に細菌が繁殖しやすくなっています。
日ごろの口腔ケアがきちんとできていないと、それだけ誤嚥性肺炎のリスクが高くなってしまうのです。
また、持病がある人の場合、健康な人に比べて免疫力が下がっていることも考えられます。ほんの少し誤嚥しただけでも肺炎を起こしてしまう恐れがあるので、普段から気をつける必要があります。
椅子に座るなど、姿勢を安定させて行いましょう。
胸元が濡れる場合があるので、タオルを巻いたりエプロンをつけたりして準備しましょう。
まずうがいをします。
汚れを落とすのに加えて、口の中を湿らせるためです。乾いたままで擦ると傷つけてしまうことがあるので気をつけましょう。
水を口に入れたままで口を閉じ、「ブクブク」とうがいをして下さい。
高齢者では、うがいが上手にできない人も多いです。うがいの水を誤嚥してしまうこともあるので無理をせず、水を吐き出しやすいように横で介助をしてあげましょう。
歯ブラシは、口の奥まで洗えるように「小さめ」のもので、さらに歯肉を傷つけないように「毛がやわらかめ」の物がおすすめです。
歯磨き粉はたくさん付けすぎず、ほんの少量だけつけて、磨きましょう。
入れ歯は虫歯になることはありませんが、汚れたままにしていると口臭のもとになったり細菌が付着したりします。
寝る前には外して丁寧に洗いましょう。
研磨剤の入った歯磨き粉で洗うと傷つけてしまうので注意してください。
磨いた後は流水でしっかりとすすぎ、水に浸して保管します。
高齢者は唾液の量が少なくなっているし、舌の動きも鈍くなっています。そのため、歯以外の場所の汚れが自分で取りにくくなります。
汚れが残ったままだと口の中で雑菌が増えてしまう原因となり、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
舌や粘膜を磨くためのブラシが市販されているので、そういうものを使うのもおすすめです。
舌が乾燥している場合は、充分に湿らせてからブラッシングしましょう。
口の中の衛生状態が悪化すると、舌の表面に苔上のものが付着します。
これは舌苔(ぜったい)と呼ばれるもので、細菌の温床になるので、この舌苔を取ることが大事です。
舌ブラシやスポンジブラシを使って、舌の表面を奥から手前方向に優しくこすって取りましょう。
最後にもう一度うがいをして、口の中を洗い流しましょう。
うがいが出来ない高齢者であれば、口腔ケア用スポンジで拭いてあげると良いでしょう。もしくはガーゼを指に巻いて、拭きとってあげることもあります。
その人の能力に合わせて、出来るところはやってもらい、出来ないことろは介助をしましょう。
食事の前のパタカラ体操
食事前の準備として、嚥下体操が効果があります。
私の病院の回復期リハビリテーション病棟では、毎食前に患者さんを集めて嚥下体操をしています。
ST(言語聴覚士)が前に立ち、みんなで声を出して体操をして、食事の準備をするのです。
その中から、今回は『パタカラ体操』をご紹介しますね。
『パタカラ体操』は声を出しながら口を動かす、口の体操です。
「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの声を出すので、『パタカラ体操』と呼ばれます。
食事の前に『パタカラ体操』をすることで、口や舌の筋肉をストレッチをしましょう。
「パ」の音は、口をしっかりと閉じてから発声するのがポイントです。
口を閉じる筋肉が鍛えられて、口の中の食べ物をこぼさないようにすることができます。
「タ」の音は、舌を上あごにくっつけるようにして発音しましょう。
舌をしっかり動かして舌の筋肉が鍛えられると、食べ物を押しつぶしたり、のどの奥に送り込むことができます。
舌の筋力は、飲み込みが上手にできるかどうかに大きく影響するので、舌の運動は大切です。
「カ」の音は、のどの奥を意識して発音することが大切です。
のどの奥に力を入れ、一瞬呼吸を止めることで、食べ物を飲み込む動作ができます。
のどを閉じることで誤嚥を防ぎ、食べ物をきちんと食道に送ることができるようになります。
「ラ」の音は、舌を丸めて発音することを意識しましょう。
舌を丸めてよく動くようにすることで、食べ物をのどの奥に運び、飲み込みやすくなります。
ただ声を出すだけではなく、口や舌を大きく動かしながらすると、効果的です。
「大きな声で」
「一文字ずつ」
「はっきりと」
慣れてきたら、出来るだけ早く繰り返して発声すると、より効果が上がります。
童謡などの曲に合わせて、歌詞を「パ、タ、カ、ラ」に変えて歌いながら体操するのも、盛り上がるのでおススメです。
誤嚥させない食事介助のポイント
実際の食事介助の方法と、誤嚥させないポイントを説明します。
患者の隣に座って介助する
立ったままで介助をすると、患者は見上げる形であごが上がりやすくなります。
あごを上げたままで飲み込もうとすると、誤嚥しやすくなるのです。
介助をするときは同じ目線で介助できるように、となりで椅子に座って行いましょう。
最初に水分を摂りましょう
食事を始める前に、お茶や水などで水分補給をしてもらいましょう。
高齢者は唾液の量が少ないので、口の中や舌が乾燥しています。乾燥したままでは上手く食事をのどに送り込めなくて、誤嚥しやすくなるのです。
食事の合間にもこまめに水分で口を潤すと、飲み込みもスムーズになりますよ。
水分の多いものから食べ始める
最初は汁物など水分の多いものから食べてもらうのがポイントです。
水分の多い食べ物は胃酸の分泌を活性化させるだけではなく、高齢者にとって乾燥した食材よりも食べやすいです。
そのため食事の最初に食べてウォーミングアップをするのに最適です。
ごはん、おかず、汁物を交互に介助する
ごはんとおかず、汁物を交互にバランスよく介助しましょう。
気をつけるのは一口の量です。一回に口に入れる量は、ティースプーンに軽く1杯分くらいにしましょう。
少なく感じるでしょうが、その方が誤嚥しにくいです。
介助をするときにあごが上がりすぎないように、スプーンは下の方から差し出してください。
口の奥の方までスプーンを入れると嘔吐を誘発してしまうので注意しましょう。
飲み込んだのを確認して、ゆっくりと
ゴックンと飲み込んだのを確認して、一呼吸おいてから、次の一口を介助しましょう。
焦って食べると、きちんと飲み込めずに誤嚥をしてしまうリスクがあります。
高齢者の場合、食べ物をのどに詰まらせて窒息するリスクもあるので、充分に注意してゆっくりと介助をしましょう。
その患者のペースに合わせるよう心掛けてください。
「つぎは〇〇ですよ」
「少しお茶を飲みましょう」
次に口に運ぶ前に、次に食べる料理の名前を伝えることも大切です。
何か分からないまま口に食べ物を入れられ手も、食事を楽しめないですよね。
まとめ
今回は、誤嚥させない食事介助について解説しました。
高齢者の食事介助は、充分に注意して行わないと誤嚥して肺炎を起こしてしまう原因となります。
誤嚥せずに口から食事を食べられるかどうかは、自宅や施設での生活が継続できるかどうかを決める、とても重要なポイントです。
食事介助のポイントをしっかり押さえて、上手に食事介助のできる看護師が増えてくれればうれしいです。
他にも看護師の悩みに役立ててほしい内容をまとめています>>【看護師の悩み】仕事がつらいと思った時に読んでほしい
良かったらご覧ください。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。