● 担当患者の退院調整を始めるように言われるけど、何をしたらいいか分からない
● 気付いたら急に退院日が決まっていることがあって、いつも退院指導でバタバタする
● 全体的な退院支援の流れを知りたい
こんにちは、はるです。
私は地方病院で看護師長をしています。
今回は、病棟看護師の退院支援について解説します
私は一般病棟の師長として、日々スタッフと一緒に患者さんの退院支援を行っています。
退院支援とは、治療後もスムーズに自宅あるいは施設での療養生活が送れるように、入院生活と退院後の生活の橋渡しをして、退院後にも安心・安全な療養が継続できるように入院時から行う支援のこと。
でも退院支援って、けっこう難しいですよね
日々の忙しい業務をしながらの退院支援は、負担になっている人もいるんじゃないでしょうか。介護サービスの内容は複雑で種類が多いですし、関わる職種も多いので連絡を取り合うだけでも大変です。
今回は、『分かってそうで分かっていない、退院支援のやり方』について詳しくまとめます。
この記事を読めば、退院支援のやり方のコツが分かるはずです。明日からの業務にすぐに活かせる内容なので、ぜひ最後まで読んでください。
他にも、リーダー業務で困っている人は>>【看護師長が教えるリーダーシップ】リーダーに向いてないは思い込み!の記事も参考になると思うので、読んでみてください
なぜ退院支援が必要なのか
まず最初に、なぜそんなに退院支援が大切なのかを説明します。
たとえば、病気がちの人が『体調が悪くなった時にすぐ対応してもらえるから、ずっと入院していた方が安心』と思って長期入院を希望したとします。
しかし現状では、治療が必要ない人が入院を続けることはできません。
まずは、退院しなければいけない理由から、説明しますね
まずは、退院しなければいけない理由から、説明しますね。
国は早く退院することを推奨している
本人や家族が希望しても、ずっと入院しておくことはできないの?
治療が必要なくなったと意思が判断した状態で、希望して入院を続けることはできません。
その代表的な理由は、次の通りです。
・ベッドが空かないと次の人が入院できない
・高齢者は入院期間が延びると寝たきりになったり認知症が進んだりしやすい
・医療費が増えて税金を圧迫してしまう
・医療のレベルが高くなっているので短期間で治療が終了できるようになった
これらの理由があって、国の方針として、入院期間を短縮するように医療機関に求めています。
この国の政策のため病院には、入院した日数が長くなるほど収入が減って赤字になるような医療費制度と、自宅や老人施設に退院する人の割合が一定数以上じゃないとペナルティが課せられる仕組みになっています。
この『自宅や老人施設に退院する人の割合』を在宅復帰率といいます。
つぎに、在宅復帰について詳しく説明します。
在宅復帰ってなに?
最近、『在宅復帰率』や『在宅復帰支援』という言葉をよく聞きませんか?
在宅復帰支援というのは、厚生労働省が進めている『地域包括ケアシステム』という仕組みの中で、高齢者ができるだけ在宅に戻れるように支援しようとする取り組みのことです。
介護老人保健施設を出ていく人の半数近くは病院に長期入院していて、自宅に帰る人は約20%しかいません。
自宅に帰るのが難しくなっている主な理由は、以下の3つです。
- 介護の必要性が高い
- 排泄に介助が必要
- 入浴に介助が必要
このように、普段の生活で多くの介助が必要になると、本人は家に帰りたいと思っていても家族の負担が大きくて、家族が受け入れられない場合もあります。
在宅復帰支援というのは、地域の介護サービスを活用することで介護者の負担を軽くして、できるだけ自宅や居住系介護施設(グループホームや有料老人ホームなど)に退院してもらうように支援することを言います。
長期間病院に入院している患者をできるだけ減らして、自宅や施設でメリハリある豊かな生活を送っていただけるように、国を挙げて取り組んでいるのです。
入院した日から退院支援を開始!
退院支援を始める時期は、なんと『入院当日から』なんです。
入院したばかりで、もう退院の準備?!
そうなんです。入院した当日から、もう準備は始まっているんです。では、詳しく説明していきますね。
入院前の生活の様子を情報収集
入院当日にする退院支援で一番大切なことは、入院するまで『どこで、どんな風に生活をしていたか』の情報収集です。
その生活の様子から、今回の病気を治療したあと、退院支援をどう進めていくか、大まかな道筋が決まるのです。
まずは『どこで生活していたか』を確認して、それに応じた情報を収集しましょう。生活の場所は『自宅』『施設』『病院』の3パターンがあります。
1.自宅
自宅で生活していた人の場合は、家族構成を確認しましょう。何人で、だれと生活していたのかということです。
- 一人暮らし
- 高齢の妻と二人暮らし
- 夫と、息子夫婦と同居
家族構成の違いが、その人の生活を支える介護力の違いになります。
そして、家庭内での役割も確認をしましょう。
家事や炊事を担当しているは誰でしょう?
自分でやるのか、家族がやってくれるのか?
あとは、家の構造も大切です。集合住宅でエレベーターのない3階に住んでいたり、2階建ての戸建てで寝室が2階でトイレは1階だったり。そうなると、階段の上り下りが出来なければ自宅に退院することができませんよね。
2.施設
施設入所中の方であれば、どのような種類の施設なのかを確認します。
介護の必要がある人が入所するタイプの施設と、自立生活ができる方のための施設がありますが、今回の病気で何か障害が残ったり介護が必要になった場合に、それに対応できる施設なのかどうかの確認が必要です。
このタイプだからこう!と決められない部分もあります
施設ごとに若干対応が違うので、そのつど問い合わせて確認しています
3.病院
病院から転院してくる場合もあります。
長期療養目的で療養病院に入院している方や、精神科病院に入院している方が、急性期治療のために入院されることがあるのです。その場合は、治療が終了したら元の病院に戻るのかどうか、確認が必要です。
もともとその病院を退院する予定だった場合などは、そこに戻らず、自宅や施設への退院を調整する場合もあります。地域連携室を通じてもとの病院と連絡を取り、今後の方向性を確認してもらっていましょう。
入院前のADLを確認しておこう!
いまは病気でグッタリしてるかもしれませんが、普段の様子はどうなのかを聞いておきましょう。
- 介護認定を受けているのか、介護度は?
- 日常生活の介助はどの程度必要か(食事、排泄、更衣、入浴など)
- 認知症の有無
病院の指定の情報収集用紙があれば、それに沿って確認をしていきましょう。
基本的には、これらの項目を網羅する内容で作られているはずです。出来るだけ空欄のないように、情報を収集してください。
本人と家族は入院前の生活をどう考えていた?
次に確認することは、本人や家族の気持ちです。
入院前の環境について何か困っていたことはなかったか、今回の治療が終わったら元の環境に戻ろうと思っているかどうかを確認します。
- 昼間は家族が仕事なので一人になる。最近は認知症の症状が出ているので危ないんじゃないかと不安だった
- 娘が付きっきりで介護をしているが、娘自身も体調を崩しそう。そろそろ限界かもしれないが、どこに相談したらいいか分からなかった
- 夫が死んでから一人暮らしだが、体調を崩した時に誰にも気づいてもらえないんじゃないかと不安だった
お話を聞いてみると、本人や家族がこれまでの生活に不安を感じていたり、だれに相談したらいいか分からず悩んでいたという方もいます。
今回の病気の治療をきっかけに、これまでの生活での不安も解消して、安心して地域で生活してもらえるよう環境を整えることも、私たちの仕事です。
地域連携室と情報共有しよう!
こうして得られた知識は、地域連携室の医療ソーシャルワーカーと共有します。
そして医療ソーシャルワーカーから患者の担当ケアマネに相談してもらったり、入所施設に連絡を取ってもらって連携をつないでいきます。
ここまでを、入院当日から1週間以内をめどに進めています。明らかに問題があって早めに対応が必要な場合は、入院翌日にはここまで完了することもありますよ。
ええっ。そんなに早くやるの?
国が推奨する入院期間は2週間よ。
2週間以内に治療が終わる人が多いから、どんどん進めないと間に合わないのよ!
治療中にも退院支援を行う!
さらに治療を進める途中でも、退院支援は続きます。
病気によっては、入院当初にくらべて患者の状態がどんどん変化することもありますよね。
体に障害が残る病気やけがの場合、どこまで体の機能が回復するかは経過を見ないと分かりません。また、内科疾患でも治療が長引けば安静期間が長くなるので、そのぶん体力が落ちて日常生活動作が1人で出来なくなっていきます。
治療の進み具合を見て、先を予測して進める必要があります!
ここからは、入院から少し時間が経った頃に行う退院支援について説明します。
本人と家族は、退院後をどう考えている?(2回目)
この時点で本人と家族に対してもう一度、治療が終了した後の生活についてどんなイメージを持っているかを確認します。
病状については主治医から詳しい説明を受けているので、体に障害が残ることや以前のように一人で何でもできるわけではないことを、なんとなく想像できている状況だと思います。
また特に入院前と変わらない身体機能が保たれていたとしても、もともと自宅生活に不安を感じていた人もいます。
その状況を踏まえて、本人と家族にそれぞれ、退院後の生活のイメージを確認するのです。
- これまで通り家族で支えながら自宅生活を続ける
- 施設入所も検討してみるか悩んでいる
- いまの施設ではなく、他のところに移りたい
- 一人暮らしが気に入っているので、生活は大変だが帰りたい
大切なことは、どんな認知症の高齢者であっても、家族の意向だけで決めるわけではないということです。
必ず本人の意向が優先されます。本人がどうしたいのか、そのことを確認したうえで家族と相談する流れです。
ケアマネからも情報をもらおう
その患者に担当ケアマネージャーがいる場合は、情報共有が大切です。ソーシャルワーカーを通じて連絡を取り、退院先の調整に協力をしてもらいましょう。
ケアマネージャーはその患者や家族と深くかかわっている医療者なので、病院が把握していない家族の背景情報やこれまでの援助の経過などをよく知っています。そしてご家族や本人の気持ちもよく分かっているので、どういう手助けを必要としているかを、一緒に考えてくれるのです。
その患者に関わる多くの医療者で情報共有することが、より良い退院支援のために重要なのです。
治療の方針は? 今後の目途は?
今後の治療がどう進むのか、主治医とよく確認をしましょう。
『治療がうまくいけばこういう方向』ということと、『思うとおりに治療が進まなければこういう方向』という、二つのパターンを考えておく必要があります。
たとえば、『このまま薬が効いて症状が改善すれば、来週にはリハビリも初められるので歩行が可能になるだろう。しかし薬の効きが悪ければもっと時間がかかり、しばらく安静が必要。今後リハビリに長期間かかるし、歩けるまで回復しないこともあり得る』というように、良い予測と悪い予測、どちらも想定しておくことが大切です。
それに応じて退院支援の方向も、どちらもカバーできるように勧めておく必要があります。『治療が上手く進まない場合は自宅退院が難しくなることもある』ことを想定しておいて、早めにソーシャルワーカーと計画を立てておくのです。
治療が進んできたら本格的に!
治療が進み、今後の方向性がある程度決まってきた時期に、本格的な退院支援にうつります。このころになると本人も家族も退院が近づいてきていることを分かっているので、具体的な内容が相談できるようになります。
またこれまで入院直後や治療中に何度も退院後の生活について話をしているので、徐々に考えが固まり始めているはずです。
本人と家族は退院後のこと、今はどう考えている?(3回目)
ここでもう一度、本人と家族の気持ちを確認します
これまでにも何度か確認をしていますが、治療が進むにつれて患者さんの状態も変化してきますし、時間が経てばご家族の仕事の状況や環境が変化している場合があります。
そして人の気持ちというのは、ちょっとしたきっかけでも大きく変わることがあります。そのため、何度でも繰り返して本人と家族の気持ちの確認が必要です。
- やっぱり家族で協力して自宅生活を続ける
- 施設入所を検討するか悩んでいる
- いままでの施設とは違う、他のところに移りたい
- 生活は大変だが、気ままな一人暮らしに帰りたい
このころには退院後の患者さんの状況が、想像しやすくなっていると思います。自分で歩けるのか、排泄や入浴に介助が必要なのか、一人で自宅で過ごせる理解力が保たれているのか。
そういう詳しい状況を家族やケアマネと共有しながら、患者さんの希望に沿っていて、安全で快適な生活にするために、どういう支援が必要なのかを考えます。
自宅に退院するために必要な条件は?
自宅生活をするためには、いくつか必要な条件があります。家庭によって受け入れられる条件は違いますが、ここでは一般的な話をしますね。
1.一人暮らし
- 家の中を移動する能力があること
- 生活のための判断能力があること
- 医療処置が必要ないこと
一人暮らしに帰るためには、一人で移動できることが条件になります。歩けることが一番ですが、ベッドやトイレの環境が整っていれば、車いすでも可能です。
あとは、一人で生活できる程度の判断能力が必要です。お金の管理や、火の始末などを間違いなくできるくらいの理解力が求められます。
あとは当然ですが、医療処置が必要ない病状になっていることも、退院のための条件になります。
2.二人暮らし
- 家の中を介助で移動する能力があること
- 生活のための判断能力があること
- 医療処置が必要ないこと
高齢者だけの世帯だと、一人暮らしの場合とそんなに条件は変わりません。ただし、介助者がいないわけではないので、一人暮らしよりは広い範囲で対応できるはずです。
子供と二人暮らしだともう少し介護できる範囲が広がるでしょうが、それでも基本的な生活能力は必要です。
家の中の移動では、少し手伝ってもらったり、転んだときに助けてもらうことができます。
また判断能力が少し怪しくても、二人で相談しあって判断することになるので、一人暮らしよりも重要ではなくなります。
医療処置の対応も、基本的には全くないのが望ましいですが、同居の方の理解力によっては自宅介護が可能になる場合があります。ただし、同居家族の負担は大きなものになるので、注意が必要です。
3.介助できる家族が複数いる場合
- 家族が介護できるなら寝たきりでも可能
- 目を離さない環境が作れるなら判断能力が低くても可能
- 家族が医療処置を行うなら人工呼吸器でも可能
子供世帯と同居している場合など、介護者が複数いれば自宅退院を目指すことも、もう少し可能性が広がります。
あとは介護者である家族が何人いて、どこまで介護をおこなえるかは、家族の事情次第になります。
家族が全員、仕事や学校で家にいないのであれば、一人暮らしと変わらない条件が必要になるからです。
息子さんは仕事で昼間はいないけど、お嫁さんは主婦で自宅にいて、孫も学校から帰ったら介護が手伝える場合など、複数の介護者がいればかなり広範囲の対応ができるでしょう。
施設に退院するために必要な条件は?
- 必要な介護量が提供できる施設かどうか
- 対応困難な認知症症状などがないこと
- 医療処置が必要ないこと
入居施設の種類によりますが、その患者さんの身体条件に合った施設であれば、介護量の問題はありません。
あとは認知症の周辺症状などで、家に帰ろうとして黙って出ていってしまうような『徘徊症状』があったり、周りに人に対する攻撃的な行動がある場合などは、集団行動ができずに施設入所が難しい場合があります。
また、食事が食べられなくて点滴を続ける場合や、夜中でも頻繁に痰の吸引が必要だったり、人工呼吸器を使っているような場合は、施設への退院は難しくなります。
こういう状況の方は、もう少し病院での療養生活を続けることになる場合が多いです。
もう少し病院で療養を続けるためには?
急性期の治療は終わったけれども、自宅や施設に帰ることができないような状況の場合は、病院で療養生活を続けることになります。たとえば点滴を継続する必要がある場合や、継続的な医療処置が必要な場合ですが、その場合は慢性期療養になります。
慢性期療養を専門に扱っている病院もあるので、そういう病院へ転院する方向になることも多いですね。
慢性期の病床には種類がありますので、代表的なものを紹介します。
地域包括ケア病棟
急性期の治療が終わったあと、退院に向けてリハビリをしたり、自宅の環境を整えるための期間を過ごす病棟です。
治療が終わった途端に退院するのが不安な方や、自宅で生活できるようにする準備にもう少し時間がかかる方などが入院しています。
入院期間に制限があって、長くても2ヶ月以内には退院する必要があります。
回復期リハビリテーション病棟
ここはではなく、回復期という分類ですね。
病気によって身体機能に障害を受けた人が、退院に向けて集中的にリハビリを受ける病棟です。
病気ごとに入院期限が決められているので、2ヶ月~長くても6ヶ月以内には退院となります。
療養病棟
療養病棟は入院期間の制限がなく、時間をかけた療養生活を送ることができる病棟です。
急性期の治療の必要はなくなったけど、引き続いて医療処置が多く必要で、通院ができないような病状の方が入院しています。
まとめ
今回は、病棟の看護師が知っておくべき退院支援の方法をまとめました。
退院支援とは、治療後もスムーズに自宅あるいは施設での療養生活が送れるように、入院生活と退院後の生活の橋渡しをして、退院後にも安心・安全な療養が継続できるように入院時から行う支援のこと。
退院支援は、急性期の病棟だけではなく、回復期や慢性期の病棟で働いていても必要になる知識です。自分が担当する患者さんの退院支援がスムーズに進められるように、しっかりと勉強しておきましょう。
退院支援のコツは、とにかく情報共有することです。医師と治療方針を共有し、患者・家族の気持ちを確認してソーシャルワーカーと共有し、ケアマネからの情報も共有する。
そうやって様々な情報を集めて、ゴールを設定することが、スムーズで満足いく退院支援につながります。
ぜひこの記事を参考にして、担当患者の退院支援に役立ててほしいと思います。
退院支援に興味があれば、地域連携室で働くことを検討してもいいですね。地域連携室で働く看護師になる?|処置やケアのないデスクワークが魅力の記事で仕事内容を紹介しているので、将来設計を考えるのに一度読んでみてください。
他にも、看護師をしていて悩むことをまとめた記事>>【看護師の悩み】仕事がつらいと思った時に読んでほしいも書いているので、良かったら読んでみてください。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。